醸造と蒸留 -ビール醸造思想で、ホップジンをつくる-

醸造と蒸留 -ビール醸造思想で、ホップジンをつくる-


福島でジンを蒸留しています、大島草太です。
僕はもともと前職で、ビールの醸造をしていました。

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ホップジャパンでビールをつくっていた頃


ビールは、麦芽、ホップ、水、酵母でつくるお酒。
麦芽を糖化させ、酵母で発酵させることでアルコールと風味をつくっていきます。
その中で、香りや苦みの個性を大きく決めるのがホップでした。

そこで僕たちは昨年の夏、ホップを使い、ビール醸造の考え方を応用してジンをつくりました。

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紫蘇忽布蒸溜酒。ボトルに移る背景はホップ畑。


ホップを使ったジンは国内外ですでに存在しますが、ホップの良さをより引き出すことができないか。
その設計思想について、ここに記していきます。


ホップとは

ホップは、ビールに香りと苦味を与えるだけでなく、防腐・抗菌の役割も担う植物で、アサ科に属するつる性の多年草です。
使われるのは「毬花(まりはな)」と呼ばれる花の部分で、その内部にあるルプリンという黄色い粒に、香りや苦味のもととなる成分が詰まっています。

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蒸溜所から30分。福島県田村市のホップ畑。

ホップには数百以上の品種があり、苦みづけに向くもの、香りづけに向くものなど、それぞれの特徴をビールの醸造では使い分けます。

また、原料の状態もさまざまです。
生のまま使うフレッシュホップ、乾燥ホップ、粉砕・圧縮したペレット、さらにルプリン部分を低温で分離・濃縮したCRYOホップなどがあります。


ビールにおけるホップ


ビールにおいてホップは、主に二つの役割を持ちます。

ひとつは、煮沸中(ホットサイド)での投入による苦味付け。
もうひとつは、発酵後半(コールドサイド)での投入による香り付けです。

ここで重要なのは、温度によって取り出される成分が変わることです。

高温では、苦味成分であるα酸が異性化し、しっかりとした苦味が生まれる一方で、揮発しやすい繊細な香りは失われやすい。

逆に低温では、α酸の異性化がほとんど起こらないため苦味は生まれにくく、その代わりにシトラスやトロピカルといった繊細な香りを保つことができます。


沸点の違いを活かしたジンへの応用

今回製造したジン「紫蘇忽布蒸溜酒」では、2種類のホップを使用しました。それぞれを個別に浸漬し、個別に蒸留することで、香りの層を分けて積み上げています。

  • フレッシュホップ(センテニアル)
    →比較的高い温度帯で蒸留し、ホップ由来のグラッシーさや樹脂感など、厚みのあるニュアンスを抽出

  • CRYOホップ(カスケード)
    → 低温帯で蒸留し、柑橘や花のような軽やかな香りを抽出

弊社の蒸留器は減圧と常圧の両方に対応しており、アルコールと水の混合系の沸騰温度を20℃〜78℃程度までコントロールすることができます。


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naturadistillの蒸留器


これは、ビールにおけるホットサイドとコールドサイドの設計思想を、蒸留に置き換えたものとも言えます。


生成と抽出 -醸造と蒸留の大きな違い-

ビール(醸造)とジン(蒸留)の最大の違いは、香りの生まれ方にあります。

ビールでは、酵母や酵素の働きによって香りが「生成」されます。
時間の経過とともに香りは変化し、育っていきます。

一方ジンでは、すでに植物の中に存在している香りをどう壊さずに取り出すかが重要になります。
つまり、ジンにおける香りは「生成」ではなく「抽出」です。

設計の主役が、時間や微生物から、温度や圧力へと移る。
ここに醸造と蒸留の大きな違いがあります。


ビールの香りを「生成」 -バイオトランスフォーメーション-


ビール醸造の面白さのひとつが、バイオトランスフォーメーションです。

これは、酵母がホップ由来の成分に作用し、別の香りへと変換する現象です。

例えば、
・ゲラニオール → シトロネロール(より柑橘らしい香り)
といった変化が起こります。

つまりビールでは、ホップの香りはそのまま表出しているのではなく、酵母によって再構成されているとも言えます。

これは醸造酒ならではの特徴であり、近年ではこの現象を活かしたクラフトサケなども生まれています。

一方でジンでは、このような変換は基本的に起こりません。
だからこそ、素材そのものの香りをどれだけ精度高く取り出せるかが重要になります。


ジンの香りを「抽出」 -アルコール浸漬とカット-

ジンづくりにおいて、ビール製造と大きく異なる工程が、ボタニカルの「浸漬」と蒸留時の「カット」です。

浸漬では、ボタニカルの香気成分をアルコールに溶かし出します。
ここでも時間や温度によって抽出される成分は変化します。

そして蒸留では、
・ヘッド(軽く揮発する成分)
・ハート(中心となる香り)
・テール(重く雑味になりやすい成分)
を分けて取り出します。

どこを使い、どこを切るか。
人の鼻と舌でチェックしていきます。
この判断を人の鼻と舌で行うことで、仕上がりの透明感や奥行きが大きく変わります。


最後に

ビール醸造で培ってきた、植物の香気成分を引き出す考え方を、発酵ではなく蒸留へ応用する。

沸点の違いを理解し、抽出条件を分け、香りをレイヤーとして組み立てる。

そうして生まれたのが、ホップを使ったジンという一つのかたちです。

これからも、さまざまな技術を蒸留へ応用しながら、ジンの香りの可能性を探っていきたいと思います。

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